「王様の仕立て屋〜サルト・フィニート」感想

王様の仕立て屋・第140回目「光圀の醍醐」(スーパージャンプ12号掲載)
 ※ゴルゴンゾーラ、スエード靴、クレームについて楽しめる回だと思います。

今回のスーパージャンプの表紙は主人公の織部がドンと大写し。

紺のジャケットにストライプのドレスシャツというコーディネートのせいか、偏屈な織部が好青年に見える。
それにしても「ロングヒット!!」という見出しはシンプル過ぎやしませんか…。

 ベリーニ伯爵一行がカプレーゼ(モッツァレラチーズとトマトのカプリ風サラダ)食しているところからスタート。
「王様の仕立て屋」では、博識で有力者のベリーニ伯爵が話の起点となることが多い事実を覚えておくといいだろう。
するとそこへ。

「こんな物で金取ろうってのかいお宅は」
 リストランテのオーナーに、大声で指摘をする男ガッティはゴルゴンゾーラ作りの名手であるチーズ熟成士。
水牛の乳100%で作ったモッツァレラチーズを「モッツァレラ・ディ・ブーファラ」と呼ぶが、
「出されたモッツァレラは混ぜ物がしてある」と見抜いてしまうのだから凄い。
初めてこのくだりを読んだ人は、「これ、料理漫画?」と思いかねないチーズ関連の知識量である。

 ガッティ氏のチャッカブーツはタバコブラウン。
単色ページの悲しさか、タバコブラウンの色が伝わりにくい…のでフォロー。
こちらが色彩分類上のタバコブラウン
この色にスエードの起毛した表面の具合、20年履いているという渋み具合を加味すればガッティ氏の靴が想像できるかと。

 指摘は的確だが、店内にお客様がいようと構わず駄目出しをするガッティ。
そんなガッティにリストランテも戦々恐々としている様子。
そこでベリーニ伯爵は、ガッティを老舗リストランテのオーナー会合に招き融和を図りなさいと言う。
条件は、

「ガッティ氏のトレードマーク“ディアスキンのチャッカブーツ”を維持し、
節度をわきまえたアピールができる服装を作り上げること」


 伯爵のムチャぶり→オールマイティな天才職人織部出動という黄金パターン。
タイトルが「光圀の醍醐」のせいだろうか。
ニコラ翁が織部の工房を訪れた際の口上「控えおろう庶民!」も随分大きいコマが割られています。

 ガッティと面会した織部は、雑談の中から見事ヒントを見つけることに成功。
お客様の欲する物やイメージする物、解決の糸口を見つける……探偵さながらの洞察力が織部の大きな武器といえる。

 ここからは採寸→裁断→縫製(セルジュ君もお手伝い)、ディアスキンブーツをマルコが手入れして完成。
いざ会合でお披露目。

 会場の列席者の前に姿を現したガッティ氏の服装は…。

●クリーム色モヘアの三ボタンスーツ(段返り)
●白のボタンダウンシャツにグリーンの柄チーフ

「クリーム色とグリーンの取り合わせがゴルゴンゾーラを思わせる色合いだ」

 スーツがチーズで、チーフが青カビ! 
ゴルゴンゾーラの熟成に生涯を捧げたガッティ氏専用の出で立ちだ。
さすがにモヘア100%ではなく混紡で、光沢を強調させたような描写なのでモヘア50〜60%くらいだと推察。
夏に適したモヘアの光沢を、スエードの毛並を際立たせるために用いたアイディアは使えそうです。
こうやって服と靴の化学反応を楽しむ試みは本当に良いと思う。

 というわけで、スエード靴をお持ちでチーズ熟成士で悪質チーズにクレームをつけてしまいがちな方は、
当店でモヘア混スーツを注文するといいですよ! 日本で揃うのかその条件。

 こうして、スエードブーツを履いたまま節度を示す服装で会合に出席させるというミッションは無事成功。
…と思いきや伯爵が最後に一押し。
「的確なクレームを裏で揉み消しクレーム対策をマニュアル化すれば、
その場だけが取り繕われ何の解決にも繋がらない」
 この伯爵もある意味(良質な)クレーマーだよな…。
指摘が的確な上、権力者なので誰も逆らえないし。
伯爵はガッティ氏に同類の臭いを嗅ぎ取ったのかもしれない…。

 こうしてイタリア料理界から先生と歓迎されるようになったガッティ。
「先生が眉をしかめたぞ!」
「誰だ今日の担当は」
「ダンカンコノヤロー」
 と、ビートたけしの物真似まで飛び出すリアクションの大きさに調子が狂い、
ガッティ氏はイタリアから旅に出てしまうのだった…フランスカマンベール村まで(遠いよ)。

(2009年5月30日)

オーダースーツのメンズギャラリー福田TOPへ戻る